はじめに
悪質リフォーム業者の逮捕に関連して毎日新聞さんから取材を受けた。(2024年1月18日 21面)ここでは、記事にならなかった点について解説する。
事件の概要
「屋根が壊れている」などの虚偽の説明をして本来は不要な工事契約をさせていた業者の社長ら7人が、詐欺未遂容疑で逮捕されたというもの。
うち2人は建造物損壊容疑でも逮捕されている。わざと屋根を壊して修繕工事の契約を結ぶといったことまでしていたようである。
今回の件に限らず、訪問販売によるリフォーム工事・点検商法のトラブルが増えており、その対策が急がれる。
参考:国民生活センター「訪問販売によるリフォーム工事・点検商法」
https://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/reformtenken.html
許可がなくても建設業はできる
記者からは「小規模なリフォーム工事には建築士の資格や建設業の許可は不要となっている。そのことについてどう思うか」ということを聞かれた。
まずは建設業許可についての整理。
建設業を行うには建設業許可を受ける必要がある。しかし、「軽微な工事」であれば許可がなくてもできる、としている。
建設業法第3条
建設業を営もうとする者は、…許可を受けなければならない。
ただし、政令で定める軽微な建設工事のみを請け負うことを営業とする者は、この限りでない。
ただし、「政令で定める軽微な建設工事」とは以下のものとなっている。
・工事一件の請負代金の額が500万円(建築一式工事は、1,500万円)に満たない工事
・延べ面積150㎡未満の木造住宅を建設する工事
建設業法では、許可の種類が分かれている。以下はその一例。
業務内容 | 許可の種類 |
---|---|
土木一式工事 | 土木工事業 |
建築一式工事 | 建築工事業 |
大工工事 | 大工工事業 |
左官工事 | 左官工事業 |
屋根工事 | 屋根工事業 |
電気工事 | 電気工事業 |
塗装工事 | 塗装工事業 |
防水工事 | 防水工事業 |
他にも、内装仕上工事業、機械器具設置工事業、造園工事業、建具工事業、解体工事業などたくさんの種類がある。
建築工事一式、つまり、大工工事も左官工事も屋根工事も…と全部を行う場合であっても、請負代金が1,500万円未満の工事しか行わないのであれば、建設業許可を受ける必要はない。一式工事ではなく、屋根工事だければ500万未満の工事であれば許可は不要ということになる。
なぜ許可不要なのか
建設業法はあまり詳しくはないので、聞きかじりだが、小規模業者は許可不要としている理由としては以下の2つがあげられる。
まずは、ひとり親方の存在。個人で小規模な工事しかしない者に許可を求めるのは負担が大きい、という配慮だろう。宅建業法で自ら貸主は宅建業免許不要としていることに似ているといえる。
もうひとつ。設備販売業が設置工事を併せて行う、というのもある。
例えば屋根につける太陽光発電パネルを売ったのであれば、その設置も行うだろう。エアコン業者がエアコンを売って取り付けは知りません、というわけにはいかない。とはいえ、太陽光発電パネルを取り付けるだけで、その以外の屋根の工事をするわけではない。屋根工事業の許可を要求するまでもない、ということだ。
もっとも、個人事業主(ひとり親方)でも建設業許可を受けているひともたくさんいる。
そもそも業界の問題なのか
このような事件が起きても、業界や行政の対応が進んでいるように思えない。これは、建設業界の問題ではなく、悪徳商法だ、という認識なのだと思う。
つまり、悪徳商法・悪質祥法をするような人たちがリフォーム業界を利用しているだけで、建設業者が悪質リフォームを行っているわけではない、と。これはその通りだと思う。
しかし、そうだとしても業界を利用されないためにも、何よりも被害者をなくすためにも、対応が必要だろう。
また業界を利用しているだけ、と書いたが、報道によれば、実際の工事は下請けに出していたとのこと。下請工事を受注していた業者は怪しい会社だと思わなかったのだろうか、という気にもなる。
登録制を併用できないか
とはいえ、建設業許可を取得するには、それなりに負担が大きい。例えば、以下のようなことが求められる。
・経営業務の管理責任者等の設置(建設業法施行規則第7条第1号)
・専任技術者の設置(建設業法第7条第2号、同法第15条第2号)
・財産的基礎等(法第7条第4号、同法第15条第3号)
※詳細は国土交通省のウエブサイトを参照
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000082.html
ひとり親方や設備販売業者に一律、建設業許可を求めるのは負担であることは理解できる。しかし、業者の名称(商号)、住所、代表者の氏名等を登録することは可能かと思う。
屋根に限らず、リフォーム工事の訪問販売をする際は、登録証の提示を義務付けるなどすれば、多少の抑止公開があるのでは、と考える。
トラブル防止のために
むろん、登録制を採用しても、無登録で事業を続けたり、偽造したり、ということをするものも出てくるかもしれない。業界、行政としては、こういったトラブルの周知に努めていくことが、まじめに業を営んでいる者のためにも必要だろう。特殊詐欺(オレオレ詐欺)もそうだが、事例を知ることで被害にあうことが減る。
一方、消費者側も対応が必要だ。住宅は建築後、何十年も住むものだ。ある程度築年が経過した建物は、屋根に限らず定期的な点検をしておこうことが必要だ。人間ドックが必要なように、劣化の早めの発見が建物の寿命を延ばすことになるし、悪質商法をなくすことにもつながる。住宅を所有者している以上、相談できる業者を決めておく、ということが大切だろう。