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寒波で水道管凍結。賃料は減額されるのか!?

 寒波で水道管凍結。賃料は減額されるのか!?

設備の一部が使用できなくなった場合、賃料は減額される。

当たり前の話だ。設備が使用できる状態で賃料を定めたはずだからだ。では災害等により断水があった場合にも賃料は減額されるのだろうか。

2023年1月下旬、10年に1度レベルといわれる「強烈寒波」が日本列島を襲い、水道管の凍結などの事故も起きた。自然災害が原因で広範囲にわたり断水等が生じた場合にも賃料は減額されるのか。それを考えるのが本稿の目的である。

水抜きは賃借人の責任

個々の住宅の水道管の凍結し破損したといった場合には、賃借人(入居者)の責任とされる。賃借人が凍結予防の措置を怠ったということになり、家賃減額どころか賃貸人(大家)から損害賠償を求められることがある。

集合住宅の貯水槽が凍結した

2023年1月下旬の寒波では、新潟県内で賃貸集合住宅の貯水槽が凍結するという事故が数多くみられ。また、新潟県内の広範囲で水道管の凍結が発生した。

北海道や東北では、同じような話を聞かないから、新潟県の貯水槽、水道管の凍結防止対策が不十分なのかもしれない。

一方、広範囲で凍結が発生していたことを考えると、想定外のことであり、賃貸住宅所有者や水道管理者の責任を問うのは難しい、と考えることもできそうである。

民法はどう定めているのか

賃借物の一部滅失による賃料減額については、民法第611条の1項に規定されている。この規定はH29の民法改正の際に、この条文も改正されている。より明確な規定になった。

改正前改正後
賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される

なお、一部滅失などにより、賃借した目的を達成することができなくなったのであれば、賃借人は契約を解除できる(第611条第1項)

滅失以外の理由でも減額される

まず、改正前は「一部が…滅失したときは」となっていたものが「滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」に改められた。

「滅失」にかぎらず使用収益できなくなった以上は、賃料は減額されるのだ。賃借物が完全な状態で使用できることを前提に賃料が定められているわけだから、一部が使用できなくなった以上、その割合に応じて賃料は当然に減額される、ということである。


当然に、と書いたが、改正前は「賃料の減額を請求することができる」となっていたものが、改正後は「減額される」となっている。賃借人からの請求がなくても、当然に賃料は減額する、というのが法律の考え方だ(いくら減額されるのか、というのはまた別の話だ)


ここでいう「使用及び収益をすることができなくなった場合」に災害等による断水、停電などが含まれるのかが問題となるのだ。

使用収益できなくなったのは誰のせいなのか

改正後の条文は「賃借人の責めに帰することができない事由」であれが、賃料は減額される、としている。つまり、一部使用収益できなくなった責任が誰にあるのかによって、場合分けできるだろう。

賃借人に責任がある賃料は減額されない
賃借人に責任がある賃料は減額される
賃借人、賃貸人どちらにも責任がない賃料は減額される

使用収益できなくなったことの原因が賃借人にあるのであれば、賃料は減額されない。個々の住宅の水道管が凍結、破損したという場合はこれに該当するだろう。寒波の襲来はニュースなどでも報道されていたから、水抜きなど必要な対策をほどこすのは賃借人の義務と考えられるからだ。

実際、実務上も水抜きを怠った場合などは、賃貸人から損害賠償を求められることが多い。

「賃借人の責めに帰することができない事由」となっている以上、賃貸人に責任がない場合でも賃料は減額されるのだ。第三者による不法行為の場合にも賃料は減額される。

例えば、電柱から家屋内に引き込まれる電線が、誰かのいたずらで切られたため電気が使用できなくなった、という場合にも減額の対象となるのだ。

では、災害の場合は、どうか。災害は賃借人の責任ではない。とすると、賃料は減額されるよう思える。

業界団体のガイドラインでは、天災も賃料減額の対象に

賃貸管理会社の業界団体である(公財)日本賃貸住宅管理協会が「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」を公表している。

台風や震災等の天災で、貸主・借主の双方に責任が無い場合も賃料の減額が認められる。
ただし、電気・ガス・水道等の停止が貸室設備の不具合を原因とするものでなく、
供給元の帰責事由に基づく場合は、この限りでない。

(公財)日本賃貸住宅管理協会が「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン

台風や震災等の天災も賃料減額の対象としているのだ(あくまでガイドライン。強制力はない)

大規模災害は対象外という考えもある

とはいえ、地域全体の停電した、断水した、ガスが使えなくなったという場合には、別に考える必要があるのではないか。

平成30年に国交省の「賃貸借トラブルに係る相談対応研究会」が「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集 ~賃借物の一部使用不能による賃料の減額等について~」を発表している。

地域全体の賃貸借契約に影響を及ぼす大規模災害等の場合については、関係省庁による様々な支援の実績があること等特殊な事情が発生するため、本書の対象外としています。

賃貸借トラブルに係る相談対応研究会

もちろん、これは「相談対応事例」の対象外としているだけであって、賃料減額が必要ない、と言っているわけではない。

筆者の見解

喜久夫先生
喜久夫先生

災害で地域全体の供給が止まった場合には、別扱いと考えるのが妥当ではないのか。

地域全体の供給レベルがさがったのであれば、そのレベルで供給することで賃貸人は責任を果たしたことになる、とうい考え方はできないか。例えば計画停電の際も賃料を下げるのか。

持ち家の人間は計画停電という不便さをうけいれなければならない。賃貸の人間はそうではないのか(大家が賃料減額という痛みで受け入れる、という発想はある)

コンパクトシティが進み、過疎地域は、電気の供給がストップする、という事態が生じたとする。本当にそんなことになるのかはわからない。わからないがコンパクトシティの発想からすればそういうことも起こりうる。 その場合には、賃料は下がるだろう。電気が使えないのなら、住まない、という人も当然でてくる。賃料を下げなければ借りてはつかない。むろんこれは需給の問題であって契約した(つまりは約束した)設備が使えない、機能が発揮されない、とは異なるが。

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